今回はマンチェスターに戻られた藤岡さんから、夏のプライベート写真付きのお手紙です(写真は大きくきれいなJPEG写真にリンクしています。クリックしてみてくださいね)。では、お楽しみ下さい。


   みなさんお元気ですか?今回はマンチェスターからです。

 久し振りに我が家に帰って来ました。
 やっぱり落ち着きます。東京の生活はエキサイティング、マンチェスターではほとんど外出する事なく、お勉強モードです。
 僕が東京にいる間に、大家さんが、家の窓を全て交換してくれていて(このアパートは、元は3階建ての150年位前の一軒家で、窓ガラスもかなり古く、外の景色がゆがんで見える程でした。)外に見える緑や空が、すごく美しく時々、ボーとしたりしています。

 TVのスイッチを入れると、この時期恒例のプロムスのLive放送をやっていました。
7月16日から9月の11日までの約2ヶ月、ロイヤルアルバートホールに毎晩6,000人以上のお客さんが集まります。これはスゴイ事です。気軽にクラシックを楽しむ人達が、これだけいるのです。この底辺がこの国のクラシック音楽界を支えているのです。

 ところで、今年も7月に、毎年恒例の日フィル夏休みコンサートを振って来ました。僕はこのコンサートを振るのが大好きです。大人も楽しめるもので、オーケストラの方達も楽しんで、演奏しています。特に今年は25周年、17公演のほとんどが売り切れ、2万7千人以上のお客さんが、聴きに来てくれました。これもスゴイ。
それでも日本のクラシックの底辺はまだヨーロッパのそれに遠く及びません。最もそれはあたり前のことです。歴史が浅いのですから・・・。むしろ日本はよくここまで来たと言えるでしょう。

 明治時代にクラシックが、日本に入って来て、山田耕作や近衛秀麿の世代がそれを広め、山田一雄先生や渡邊睦雄先生の世代がオーケストラを育て、岩城宏之先生や小澤征爾さんの世代が日本人にもクラシックをできるという事を欧米で証明しました。次の我々の世代は、日本のクラシック音楽界のあり方を少しでも欧米に近づけることが使命だと思っています。日本のオーケストラの演奏水準はヨーロッパの水準と大差ありません。問題は「底辺」です。

 日本のクラシック界の頂点はスゴイです。各地での音楽祭のレヴェル、日本のオーケストラによる、欧米の一流オケ並みのレヴェルの高い演奏会も少なくないし、あるいはコンサートホールの企画による、現代作品のシリーズでも、素晴らしいものがあります。又、日本にはクラシック通のお客さんは沢山います。CDを普段沢山聴き込んで、ホールに足を運ぶお客さんは、ヨーロッパより多いかもしれません。これも、オーケストラにとっては大切な事です。
 「底辺」はどうでしょう?(ここで言う「底辺」とは、特にこの日本のオーケストラを支えてくれている人達です。)
 東京にいると、オケが9つあったり、音楽大学が沢山あったりと錯覚してしまいますが、日本の人口1億2千万人のうち、いったいどれだけの人達が、クラシックの演奏会を生活の中に必要としているのでしょう?
 例えば、新聞批評、これは若い芸術家を世に送り出したり、新しい作品を紹介したり、オーケストラに刺激を与えたりして、音楽界を活性化させるだけでなく一般の人達にクラシックの世界を身近に感じてもらえるのにとても大切です。欧米では毎日のように掲載されるのに、日本ではほとんど取り上げられません。読む人が少ないからです。
 よく、音楽関係者の方が、国がお金を出さないとか、企業が助けてくれないと言いますが、日本全体の底辺を考えれば、仕方の無いことです。又その一方で、不景気といいながら外国のオーケストラに年間莫大なお金が、「外国」というだけで流れているのです。
 あるいは、せっかく新しいホールが出来ても、その町のオーケストラの演奏会が少なかったりします。ヨーロッパでは、一つの町にホールとオーケストラがあれば、月に7〜8回は、そのオケによるコンサートが開かれ、町の人達はまるで公園に足を運ぶようにホールに足を運びます。
キリが無いので例を上げるのをやめますが、このように日本のクラシック界のあり方は、その「底辺」がゆえに、まだ一流とはいえません。

ヨーロッパには、普段CDを買ったりしないけど、気軽に月に1〜2回、自分の町のオケを聴きにホールに足を運ぶお客さんが、沢山います。専門家にいわせればヒドイ演奏でも、喜んでブラボーと叫ぶお客さんも沢山いるし、昨日はロックのコンサート、今日はクラシックという人達も沢山います。
あるいは、楽章と楽章の間で拍手が起きることもしょっちゅうあります。(そんな事全然かまいません。昔は、そうしていたのが、お客さんがつかれるので、しなくなっただけですから・・・。)
そしてそういう人達によってオーケストラは支えられているのです。
今、クラシックのレコード会社が、潰れかかったり、演奏会の数が減っている一方で、ロックやJ-POPは黄金時代を迎えています。それは商業主義だけでなく、それ等の中に、素晴らしいものが、あるからです。今の若者の大多数はこれ等の音楽を楽しんでいます。将来この若者達が、経済の中枢になった時、日本のオーケストラをどれ位支えてくれるのでしょう。


「クラシック音楽界は、ワカルワカラナイではなくて、
   気軽にコンサートホールに足を運ぶ人達によって支えられている。」


それが、ヨーロッパに住んで学んだことの一つです。

僕は日本にいられるのは、年間約4ヶ月ですが、その間あらゆる手段を使って少しでもクラシックを身近に感じてくれる人達を増やしたいと思っています。
それが、日本での活動の一つのテーマです。

日本には素晴らしいコンサートホールが沢山あります。是非みなさまも、気軽に足を運んでみて下さい!!

 以上、長々とカタイ話をして本当にゴメンナサイ。次は、軽いノリのお手紙を出します。それでは又。

P.S.ちなみにもう一つの日本でのテーマは作曲家吉松隆を紹介することです。
  このテーマについては、いずれ詳しく語りたいと思っています。


1999年8月22日  藤岡 幸夫  

 
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