本ホームページ読者のかなださんから、日フィルの定期演奏会直前の5月23日に開催された「マエストロサロン」の模様の克明なレポートを、ご投稿頂きました。
超名文! かなださんは、録音もしていないのに、記憶だけでこれだけの詳細なレポートを作成されたそうです!凄い才能ですね。 … …で挿まれたコメントもおちゃめで最高!
かなださんからは、「ぜひ、WEB読者の皆様と、あの楽しい時間を共有できたら・・」ということです。 みなさん、楽しみましょう!そして、かなださんには「ブラボー!!&ありがとうございました!!」
※次回からは「藤岡幸夫さんを応援するWEBの会」の誰かが参加してレポートできるようにしますが、
こんな投稿は大歓迎です。ぜひお便り、よろしくお願いします。
5月25日、26日の日本フィル定期演奏会が興奮と熱狂のうちに終わりました。
あの「現代」の音の渦の中に身を置けたことは本当に幸せでした。
ちょっと時間が経ってしまったのですが、演奏会前のあの素敵で深いのに かなりおかしい話、どうしてもお話ししたくなっちゃいました。一生懸命思
い出しながら書きますので、是非あのシリアスな“第3番”でも聴きながら
(思い出しながら)読んでください。
日本フィル主催“マエストロサロン”藤岡さん/吉松さん…の巻
日本フィルは定期公演の2日前に、その公演の指揮者の方を招いて演目の 聴き所などをお話いただく“マエストロサロン”という会を開いています。
去る5月23日は、藤岡さんと吉松さんという豪華2大ゲストを迎えて、有 楽町の国際フォーラムで行われました。前半は藤岡さんの真面目な指揮のお
話。後半はお2人で…やっぱり漫才になりました。
司会は、新井さん。日フィルのヴィオラ奏者の方です。
司会(新井さん): 「マエストロが初めて日フィルにいらしたのは、渡邊暁雄先生と一緒で、先生 が『今日から彼を出入り自由にしてあげてもらえないかな?』とおっしゃるんです。
だから、ずいぶん若いけどきっと才能あるんだろうなぁって。そしたらいき なり、『藤岡幸夫です!よろしくお願いします!』って大きな声で挨拶
するもんだから、
『何だ?この体育会系の明るいヤツは!』ってみんな驚い ちゃいましてね。 …音楽家ってちょっと暗めで静かな人が多いですから。」
藤岡さん: 「ガハハ、よく言われるんですよ。藤岡と広上さん(淳一さん)は声がでかいっ
て。」
…いきなり笑い声から入る藤岡さん。
確かにマイクいらないかも?…
司会(新井さん): 「マエストロは渡邊先生の最後の愛弟子になるんですよね。ところで、指揮 のレッスンってどうやってするんですか?」
藤岡さん: 「ずっとピアノばっかり弾いてましたね。毎日のように先生のお宅に通ってたん
だけど、めちゃくちゃ高いスタインウェイのフルコンがあって、いつもそれ 弾かせてもらってました。来る日も来る日もピアノのレッスンですよ。で、
11ヵ月位たったある日、『明日、棒を持っていらっしゃい。』って。」
司会(新井さん): 「何振ったんですか?」
藤岡さん: 「それがね、きのう僕が弾いたべ−ト−ヴェンのソナタ!!それ、こっそり 録音しててさ、合わせて振れって言うの。」
司会(新井さん): 「え〜っ!意地の悪い…。」
藤岡さん: 「でもね、いい勉強させてもらいましたよ。だって、途中からテンポ変わっ ちゃうの身にしみて分かるんだから。」
司会(新井さん): 「なるほどねぇ。確かに身にしみますねぇ、それは。その後イギリスではグローヴスさんに師事されてますよね。教え方、違いますか?」
藤岡さん: 「同じでしたね。いっつも先生と連弾。1回も棒振ったことなかったですね。2人とも言 ってらしたことは一緒ですよ。その人の中に音楽があれば自然に出てくるもの
だからもっと音楽も人生も楽しみなさいって。あとはとにかくスコアを良く読めっていうことは叩き込まれましたね。」
司会(新井さん): 「藤岡さんの指揮はすごく分かりやすいんです。どう持って行きたいのかと か、タイミングの出し方とか。振ると面喰らう人いますからね。」
・・・藤岡さん、1番前に座っている小学生位のお嬢さん2人に
ニッコリ微笑みかけ、・・・
藤岡さん: 「話難しくてごめんね。昔フルトヴェングラ−っていう指揮者がいてね、そ のおじさんが指揮棒を振るとオーケストラの人たちがみんな面喰らっちゃう
んでフルトメンクラウって呼ばれてたんだよ。ちょっと難しいよね。」
司会(新井さん): 「マエストロは最初から順風満帆ですよね。」
藤岡さん: 「そんなことないですよ。コンクール落ちたしね。」
司会(新井さん): 「イギリス行く前ですか?」
藤岡さん: 「そう。プラハの春音楽祭で最後の3人まで残ったんだけど、チェコフィル相手に『新世界』を振らされて。 キツイでしょ?オケはうまいわ、審査員の耳は肥えてるわ。でも指揮してて気持ち良くて、絶対優勝する自信あったんだ。自分は天才だと思ってたしね、その頃。そしたらその年は優勝者
無し!って。いやぁ、めちゃめちゃ落ち込みましたね。 泣きそうになって、成田からその頃病床にあった暁雄先生の所に直行して、『落ちました。』って報告したら、『良かった!落ちろ落ちろって祈ってたんだ。』って言うの。
『今優勝なんかしたら天狗になっちゃってロクな指揮者にならないから、落 ちて良かったよ、サッチーノ!』ってさ。でもホントその通りだったですね。後で思えば、オケを指揮してたんじゃなくて、オケに振らされてたんだよね。
空回りしてただけだったんだ。」
司会(新井さん): 「そんな藤岡さんが、吉松さんの曲をやるようになったきっかけは何なんで すか?」
藤岡さん: 「暁雄先生がいつもおっしゃっていたんですよ。 『今の音楽家は過去の作曲家のおかげで
仕事をさせてもらっている。我々は現代の作曲家の作品を演奏して、恩返し をしていかなくてはいけない。』って。僕はそれを遺言と思って、ずいぶん
たくさん聞いたんですよ、現代曲。でもね、なかなかピンと来るものが無くて、まいったなぁと思ってた頃、吉松さんの『朱鷺』に出会ったんだよね。久し振りだったな、音楽聴いて泣いたの。ボロボロ泣きながら、吉松の吉って大吉
とかの吉じゃない?『キチマツ?変な名前だな。だけどオレはこのキチマツ に惚れたぞ!全部はもったいないから、人生の半分をこのキチマツに賭ける
ぞ!』って決めたんだ。」(笑い)
司会(新井さん): 「それをイギリスのシャンドスから出すことになったというのは?」
藤岡さん: 「イギリスに“プロムス”っていう大きな音楽のフェスティバルがあって、 僕がそれに出演したのを見ていたシャンドスの社長が気に入ってくれたんですよ。
『キミのCDを作ってあげよう。なんでも好きな曲入れていいよ。』って言 ってくれたんですよ。それですかさず『キチマツ演りたい!』(爆笑)そしたら
さ、『聞いたコトない名前だけど、キミがいいと言うのなら任せよう』ということで、吉松さんに連絡することにしたワケ。」
司会(新井さん): 「それではお名前が出たところで、ここからは吉松さんにも入っていただきましょうか。…どうぞこちらへ。」
・・・吉松氏、拍手で迎えられ、ちょっとテレ気味に着席。・・・
司会(新井さん): 「吉松さん、藤岡さんとは慶応大学の先輩、後輩ですよね。その頃からのお知
り合いですか?」
吉松さん: 「いや、それは後で分かったことで。それに10歳位違うしね。…藤岡君の友達のお母さんがどうやら僕が小学生のときのピアノの先生だったらしいん
だよね。それでその先生から突然電話が来て、『息子の友達があなたの曲を録音したいって言ってる。』って。イギリスで勉強してるヤツが学生のオケの指揮でもするんだと思うじゃない。『出来たらテープ送るように言ってください。』って言ったんだよ。」
藤岡さん: 「OKもらえたっていうんで、初めて吉松さんに電話したの。そしたら留守 番電話でさ、メッセージの声がムチャムチャ暗いんだよね。だから初めての電話だってのに、『吉松さ〜ん、メッセージ暗すぎますっ!』って入れちゃったんだよね。」(笑い)
吉松さん: 「それがさ、同じことしたヤツがもう1人いるの。“井上道義さん”。『吉松さ〜ん、声、暗い!暗すぎ!ガチャン』だよ。」(爆笑)
司会(新井さん): 「確かに2人、性格似てるかもしれないな。それで、どうしたんですか?入れ直したんですか?」
吉松さん: 「入れ直しましたよ。ちょっと声高めにして明るくしてさ。そしたら今度は 『吉松さ〜ん、恋してるんですか〜?うまくいかないでくださいよ〜。』だ
ってさ。どっちにすりゃいいのさって。」(またまた爆笑)
藤岡さん: 「だって、うまくいっちゃったらいい曲書けなくなっちゃうじゃない。」
・・・ううぅ、誰か止めて、この2人!!・・・
司会(新井さん): 「吉松さんがシベリウスお好きなのは有名ですけど、プログレ好きっていうのもまた有名ですよね。その2つに何か共通点はあるんですか?」
吉松さん: 「プログレって分かります?プログレッシヴ・ロック。ピンクフロイドとかソ
フトマシーンとかイエスとか。きれいな曲なんですよ。言わば、シンセを使 ったロックのシベリウスってとこでしょうかね。僕はきれいな曲しか好きじ
ゃないから…。」
司会(新井さん): 「昔、バンドもやってらしたんでしょう?」
吉松さん: 「プログレとかジャズとか邦楽とか、当時面白いと思ったもの何でもミック スして、やってたね。…よく覚えてないんだけど…。」
藤岡さん: 「出た! すぐ“記憶にない”でごまかすんだから・・。この人恐いんですよ〜、その頃のことは何にも覚えてないって言うんだから。犯罪とか関わってるかもしれないよ。」
・・・わ 笑っていいんだか・・・
吉松さん: 「ホントに覚えてないんだよ。どうもその頃“現代音楽”みたいのも書いて たらしいんだけど、・・・・記憶にない。だけどさ、その頃の音源残ってないから助かるよね。」
・・・今度は笑える・・・
司会(新井さん): 「吉松さんのすごいところは、ちょっと聞いただけで、あ、吉松さんの曲だってすぐ分かるトコですよね。現代曲ってみんな同じに聴こえたりするでしょ。」
吉松さん: 「僕だって色々影響受けてますよ。だけど、シベリウス風に作っただけじゃ シベリウスの真似、べ−ト−ヴェン風に作っただけじゃべ−ト−ヴェンの真似でしかない訳で、それをピンクフロイド風シベリウスとか、ビートルズ風
べ−ト−ヴェンにすれば、誰もやったことないからね。」
藤岡さん: 「何だか作曲家も楽しそうだね。」
吉松さん: 「楽しくなかったら作曲家なんてやってる訳ないじゃない。」
藤岡さん: 「そうそうこの人、曲の中で遊ぶんだよね。“メモフローラ”ってピアノ協 奏曲があるんですよ、田部京子さんに献呈した。そのスコア見てたらね、す
ごい振りにくいトコがあんの。えーと、8分の1、8分の9、8分の6、8 分の…って、7、8小節続くんですよ。」
司会(新井さん): 「変拍子にした必然性は?」
藤岡さん: 「無い!全く無い!!だからね、『何でわざわざあんなに振りにくいように 書いたの?』って聞いたらさ、“田部さんの誕生日!”だって!!(爆笑)
分子が生年月日になってんの!もうバカバカしくなっちゃってさ、それからはそこんトコ振るのやめっちゃったよ。」
・・・吉松さん、おちゃめ!・・・
司会(新井さん): 「ところで、イギリスのオケはどうですか?やり易いですか?」
藤岡さん: 「吉松さんの曲ってすごい東洋的なメロディーのトコあるじゃない。そうい う所なんか我々以上にすごく敏感に感じ取って、かなり東洋のイメージを強
調して演奏するよね。」
吉松さん: 「うん。第2番演ったときなんてさ、”サムライ”って言ったら通じちゃっ たもんね。”Oh ! SAMURAI !
”でチェロ、バチバチ!!それに第3番の 冒頭、フルートで尺八みたいな音出しちゃうしね。」
藤岡さん: 「あれ、CDに入れるときは良かったんだけどさ、今度ナマで演ろうと思っ たら音、聞こえないんだよね、ホールが広くて。楽譜にはフルートを使って
息だけで音を出せって書いてあるんだけど、フルートの人、いくら頑張って も無理でさ。本番では吹かないでヒュウとかフゥとか口で言うことにしたん
だ。面白いから見ててね。」
・・・と、また小さなお客さんにニコリ!・・
司会(新井さん): 「負けてられませんからね、日フィルも。」
藤岡さん: 「いや、日フィルいいですよ。今日なんかすごく良かったよね。 (注:22日から練習に入り、24日ゲネプロだそうです。)
皆さん、楽しみにしていてください。日フィルの人たちは“シンパシー”を 持って演奏してくださるから。」
司会(新井さん): 「吉松さんはコンピューターで作曲なさってるんですよね。だんだん曲がデ ジタル化したり、そのうちオーケストラ要らなくなったりしませんか?」
吉松さん: 「パソコンは便利なんですよ、オーケストレーションしたりアレンジしたり するのに。いちいち書き直さなくていいし。だけどあくまでも道具だからね。
コンピューターで作ってコンピューターで演奏したんじゃ何にも面白くない でしょ?僕はそんなものには興味がないし、そんな曲は書かない。演奏して
くれるオーケストラが無くなっちゃったら、こっちが困っちゃうよ。」
藤岡さん: 「その割には演るのが人間だってこと時々忘れてるじゃん。次はさ、人間は 息吸わないと死んじゃうんだって頭に入れて書いてよね。」(爆笑)
司会(新井さん): 「“次”というお話が出ましたが、もう次の構想は決まってるんですか?」
吉松さん: 「もうすぐ“交響曲第4番”が出来上がる予定です。」
司会(新井さん): 「藤岡さんの方は?」
藤岡さん: 「“交響曲第4番”来年、初演しますよ。吉松さんの曲としては、8月か9月に“交響曲第1番” のCDがリリースされます。来年3月にはそれを名古屋で演るんで、ちょっと遠いけど良かったらいらしてください。」
・・・といったところで、“マエストロサロン”は終了。その後サインをいただいたり、「藤岡さ〜ん、もっと東京でやってくださいよぉ〜」なんてお話してるファンの方がいらしたり……で、お開きとなりました。
会場を去り難くウロウロしながらE.V.に乗り込んだら、藤岡さん、吉松さんお二人が乗っていらして、そこから建物の出口まで一緒になってしまいました。(ラッキー!)
「え?今から?いいなぁ。でもオレ、今日は帰って寝るワ!じゃぁ!!」
…と去って行く藤岡さんの後ろ姿に思わず、“チャオ!サッチーノ!!”と声をかけてしまいそうに…。
吉松さんはというと、若いお嬢さんたち4、5人と楽しそうにお食事? お酒?…に消えて行ったのでした。 ・・・う・うらやましい!!・・・
平成12年6月7日 金田敬子
※ お二人の写真は、新潮社「Gramophone Japan」
創刊号(99.12月号)からの転載です。
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