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皆さんお元気ですか?今回はお約束の「吉松 特集」です。
吉松さんの曲に出会ったのは今から10年前、英国にきたばかりの時です。「朱鷺によせる哀歌」をはじめて聴いたとき涙があふれ、「将来この人に人生をかけよう」と心のそこから思ったのです。そのとき僕はまだ、吉松さんに会ったことも、高校・大学を通じての先輩だということも知りませんでした。
<吉松さんの魅力>
まず、なんといってもメロディの素晴らしさでしょう。
19世紀までは、どんなにオーケストレイションや構成力、発想が秀でていてもメロディを書く才能がなければ一流の作曲家にはなれなかったのです。メロディを書く才能はほんの一握りのひとにしかあたえられません。吉松さんはその一人です。
吉松さんには沢山の音楽の「引き出し」があって、それが曲ごとに吉松さん独自の作風によって見事に統一されています。その結果、聴いたことの無い吉松さんの曲でも「これは吉松の音楽」とすぐに専門家でなくてもわかります。(ところで、吉松さんはよく7th/majorのコードを使って独自のサウンドを生み出しています。これは偶然にも、僕の大好きなj-popの山下達郎がよく使うコードでサウンドテイストがちょっと似ています。)
吉松さんは、作曲するとき心で感じたことを頭で整理して「もう一度心に戻して」創造します。この事は本人から聞いたわけではありませんが、その音楽から理解できます。頭で作曲する人と違って吉松さんの曲は心を突いてくるのです。
<吉松さんの作品>
僕の独断で大きくその作品群を第一期、第二期、第三期に分けて紹介します。
・第一期・
1980年から1990年までの作品で、吉松さんがまだ「現代音楽」という世界で苦しんでいた時の作品群。苦しみながら生み出されただけに調性に対する強いあこがれと、良い意味での若さから生まれる緊迫感に満ちています。
「朱鷺によせる哀歌」 1980
吉松の名を世にしらしめた作品。
弦楽オーケストラとピアノで演奏される。
現代音楽の書法に苦しみながらも見事に独自の道を見つけ出した。
「絶滅する朱鷺」は、「絶滅する美しい調性音楽」の意味が含まれる美しくも厳しい音楽。かいま見られる美しいメロディの断片は、まるで「夜空の雲間から射す満月の月明かり」のよう。日本の現代作品のなかの傑作。
BBCのプレイヤーがCD録音の時、目に涙を浮かばせていたのが忘れられません。
「ギター協奏曲・天馬効果」 1984
BBC関係者曰く、「20世紀の最高傑作のひとつ」。
ギターの魅力を余すことなくあじわえる。1・3楽章もスリリングだが2楽章が本当にBeautiful。有名な「アランフェス協奏曲」と聞き比べればこの曲の凄さがわかります。
「鳥たちの時代」 1986
1楽章の最後に「ああ、メロディをかきたい!俺はやっぱりシベウスになりたい!」と11小節間メロディが噴出す。サイコーです。(本人に聞いた訳でわは無く、勝手に解釈しています。)
2楽章の妖しいアルトフルートのソロ、三楽章のダンス、あなたも現代音楽が好きになるはずです(?)。
「ファゴット協奏曲・1角獣回路」 1988
ファゴットという楽器の限界に挑戦。後のSAX協奏曲、トロンボーン協奏曲etcの影がイッパイで楽しめます。
「交響曲 第1番 カムイチカプ」1990
3番と並んで、いま最も愛着のある作品。
1楽章ドロドロ、2楽章は優しく、3楽章はロックンロール、4楽章は賛美歌、5楽章は美しく、「I LOVE YOSHIMATSU!」。
最終楽章のクライマックスのトロンボーンのソロも最高ですが、冒頭コントラバスで奏でられる大地の底からくるパッセージが、最後の最後にチェレスタで奏でられる。その最後の響きはまるで、「流れ星」のよう。シビレます。
今秋にCHANDOSからCDが発売されます。(Sachio&BBC)
2001年3月には、僕の指揮で名古屋フィル定期で再演されます。
・第2期・
1991年頃から吉松さんは開きなおります。
「メロディを書いて何がわるい。」と強気で、またオーケストレイションも以前よりスッキリしています。
「交響曲 第2番 ・地球にて・」 1991
「地球(テラ)にて」と呼ばれるこの交響曲、僕と吉松さんがはじめて一緒に仕
事(CD録音)をした思い出の曲です。
1楽章冒頭のチェロのソロは強烈。(当初はチェロ協奏曲になる予定だったのです。)東洋と西洋の混合風味、結構どろどろで大好き。情熱的です。吉松さん自身、今でもお気に入りの楽章です。
2楽章は、何回聴いても飽きない。BBCのスタジオでこの曲を指揮し始めた瞬間、教会に入ったときと同じヒンヤリした空気が流れました。グレゴリオ聖歌のような、心にしみるシンプルな音楽。
3楽章は、アフリカリズムに乗せたアレルヤ!
「トロンボーン協奏曲 ・オリオン マシーン・」1993
限りなく第1期の作風に近い作品で、ぼくのお気に入り。
哀愁をただよわせて始まるトロンボーンのソロは、時に激しく、あるときは優し
く、そして悲しくまるでピエロのよう。
冒頭から大団円を描いて、最後に最初はminorだったコードがmajorで回帰する瞬間、指揮していてメチャ気持ちいい!
日フィル首席の箱山さんソロの素晴らしいCDがあります。必聴!
「サキソフォン協奏曲 ・サイバーバード・」1994
名曲です。これを聴いたChandosの社長が驚きました。ぼくに直接Telしてきて「俺は、Yoshimatsuを全部録音する。」
冒頭いきなりSaxとPianoでJazzノリノリ!ところでこれを聴いて恥ずかしいと思う人が日本にはいるらしい。
英国ではオケのプレイヤーのパーティに呼ばれるといつでも、Rock,Jazzをガンガンにならしています。音楽はclassicだけではないのです。少なくとも英国でこの曲を指揮し始めるとオケにバカウケします。We Love Music!
2楽章は吉松さんの曲のなかで最も「深く美しく悲しい音楽」。
愛する妹さんが亡くなる直前に、病院の枕元で書かれたこの楽章本当に感動します。
音楽を「心」で聴く人なら、誰でもその心の琴線に触れることでしょう。
3楽章は一転して、Saxが叫びます。強烈です。
この曲はSaxの須川さんのために書かれたのですが、彼のソロは本当に聞き手のハートを揺さぶります。特に僕と再録音してくれたときのパフォーマンス(初録音の東芝EMIのみなさんごめんなさい。)はキレまくっていて圧倒されます。
「鳥と虹によせる雅歌」 1994
Sax協奏曲と同時期の作品で、妹さんを想う優しさに満ち溢れている。決して暗くならず、「今度生まれ変わるときは鳥になりたい。」といった妹さんの夢をかなえるかのよう。クライマックスでは、虹にむかって飛び立つ鳥達の姿が眼前にひろがる。
今秋に交響曲1番とカップリングされて発売予定。(Sachio&BBCpo)
「ピアノ協奏曲 ・メモ フローラ・」 1997
田部 京子さんに捧げられた曲。
冒頭、花びらがだんだんひらいてゆくピアノソロがきき手を吉松ワールドに引き込む。
聴いているだけだと気がつかないが、複雑なリズムが駆使されることによって、花びらがゆらゆらしているよう。
綺麗で繊細なその世界は、決して安っぽくならない。吉松さん独自のもの。
それにしても田部さんのタッチは絶品です。
3楽章は、春の柔らかな風をうけた女神のダンス。
CDを、是非試してください。心安らぐ吉松ワールドです。
「白い風景」1997
本来室内楽曲だったものを僕が頼んでオケの曲にしてもらいました。
ハープとフルート、チェロのソロと弦楽オーケストラの作品。
3つからなる楽章で、雪景色を描いている短い曲です。
本当に雪が舞っているかのよう。
「夢色モビール」1997
オーボエソロと弦楽オーケストラのこころ安らぐ小品。ほかの楽器でも演奏可。
それにしても、こういう曲を書いても絶対安っぽくならないのが見事。気品のある小品です。
「鳥は静かに.........」1997
ぼくの大好きな弦楽オーケストラ作品。10分もしない曲だけれどほんとうによくできている。最高のメロディ、パッション、その一方で、はかないピッツィカート。
申し分のない小品です。
「天使はまどろみながら.........」1998
ピアノと弦楽オーケストラ。「朱鷺によせる哀歌」の最新版?
冷たいと感じるほど、厳しいそして美しい。この時期の吉松さんとしてはめずらしい作品。知られざる傑作です。
「交響曲 第3番 op75」1998
やっとここまで来たー。
吉松さんが僕に献呈してくださった曲。(僕をイメージして作曲して下さったそうです。)
1楽章を支配するのは「情熱」です。そこまでヤルか!というぐらいの突っ込みをします。第2主題の純日本風メロディが哀愁をさそいます。黒澤 明の世界を連想させる仕上がり。吉松作品中、最も強力な音楽。身体が熱くなります。
2楽章は、吉松作品のなかでも最も精緻な音楽。構造美。低弦のピッツィカートのリズムたまりません。
3楽章 メロディを断片的につなげて、冷たい世界が創造されます。ヴィオラが新しい主題を奏ではじめると音楽はさらに暗闇へ。
チェロ2本のソロがうなります。後半は砂漠のイメージ。5拍子のリズムが遠くから近づいてきます。クライマックスの後、ヴァイオリンの優しいソロが・・・。
チェレスタの伴奏が効果的。
4楽章 日の出です。
太陽がさんさんと輝きだします。1楽章のminor主題がmajorになり、4楽章の主題と立体的に組み合わさって踊りだします。
後半は、静かなフルートソロが太陽の神を誘いだします。そして聖なる祭典。
この楽章は、吉松さん曰く、「まじめに演奏したら恥ずかしい。キレて壊れないと全然意味がない。」
この交響曲の特徴は、調性がはっきりしていてメロディが多用され、チャイコフスキー・シベリウスの延長線上にあるにもかかわらず、音楽の展開・発想・サウンドはまぎれもなく新しい傑作です。
5月の日フィル公開初演、お楽しみに!
CDはSaxコンチェルトとカップリングで発売中です。
強力な仕上がりになっています。聴いてみてください。
※写真は英国「交響曲第3番op75」を録音した時の
吉松さんと藤岡さんの打ち合わせの様子です。
・第3期・
交響曲3番が、第2期の集大成だと個人的に想っています。
これからの吉松さんはまた変わっていくでしょう。来年には交響曲4番を初演しますが、この曲は2期の延長戦上にありそうです。
その後の交響曲第5番、チェロ協奏曲で大きく変貌しそうです。
吉松さん 交響曲を9つ書くまでは元気でいてくださいね。
「最後に.........」
長い文章にお付き合いありがとうございました。
吉松さんの音楽を聴いてみたいという人が少しでも増えたらと思っています。
また、早く日本で他の沢山の指揮者に取り上げてほしい。
僕より以前から吉松さんの曲を指揮してきた方も勿論いらっしゃいますが、もっと取り上げられるべきです。
ぼくは、決して吉松さんを独り占めしたいなどとは思っていません。
それではみなさん、5月25.26日 サントリーホールでおあいしましょう。
2000年5月8日
このような藤岡さんの「惚れ込み」に対して、吉松さんの
「藤岡さん評」はこちらです。
さすが藤岡さんをよく御理解されている(?)名文です。
〜第42回大阪国際フェスティバルプログラムより〜
※本ページ上から3枚目の写真は婦人画報社DORSO
99年SPRING号からの転載です。(C)FUJINGAHO-SHA
※同じく、上から4枚目の写真は光文社BRIO2000年
1月号からの転載です。(C)KOBUNSHA
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