さて、前から話していた、「春の祭典の思い出」です。
この曲と出会ったのは中1の時。器学部の同級生がいつも小型テープレコーダー(この当時はウォークマンなんてない。モノラルで本体のスピーカーで聴く)を持ってきてていつも昼休みに音楽室で色々な曲を聴いてた。その時出会ったのがこの通称「ハルサイ」で、聴いた瞬間に夢中になってまった。初めて聴いたその日に下校途中でスコアを探しに行ったのを良く覚えてる。(見つけることは出来たが、あまりにスコアが高価で正月にお年玉を貰うまで買えなかった)。以来、僕のデヴュー曲は「絶対ハルサイ!」と決めていた。
時は流れて、イギリスの音楽大学に入学して2年目、大学院の卒業テストを兼ねて、学生オーケストラの定期演奏会を指揮することになった。当然僕は「ハルサイ」を選らんだ。(ちなみに学長が前半に選んだ課題曲はシューマンの交響曲4番。今考えるとシューマンの方が難しいくらいだけど、当時はそんなこと全然分かってなかった)。
「ハルサイ」を振れる事になった僕は興奮して毎日猛勉強。
リハーサルが始まる前の週にサイモン・ラトルがバーミンガムで「ハルサイ」を振ることになっていて、僕の先生のティムが紹介してくれてリハーサルを見に行った。リハーサル後、ラトルが舞台袖で「キミがティムの生徒かい?」と声をかけてくれた。「僕の部屋では取材の連中が待ってるからここで話そう。キミはこの踊りを見たことあるかい?」
僕が見た事ありませんというと、その場であらゆる場面を説明しながら20分近く踊ってくれた。これには本当に感動した。「キミは後半の変拍子(5拍子)をなんで2+3で振るかって聞いたよね?確かに論理的には3+2だけどここの踊りが2+3なんだ」
といってラトルが中を舞う。「それに僕はティンパニストだからね。人によるけど僕は2+3で感じるんだ」。「前半は何を振るの?」 シューマンの4番ですと答えると、「絶対フルトヴェングラーを聴きなさい。あの演奏がベストだよ。最高だから」。
とにかく僕はこの時ラトルの音楽、リハーサル・テクニック、人柄、全てに感動してしまった。
演奏会当日、学外審査員としてイギリスで活躍する尾高忠明先生が来てくださった。その他にもBBCフィルの幹部の人達やロンドンのマネージャー達も噂を聞いてやってきた。僕にとって渡英して初めての大きな演奏会というだけでなく、チャンスをつかむことが出来るかもしれないビッグイヴェントだった。オーケストラの学生達も最初のリハーサルからテンションが高く興奮状態が続いて、本番前は異様な雰囲気だった。僕は「早く振らせてよ!」と緊張というよりワクワクする気持ちを抑えるので精一杯。そしていよいよ本番。
ところが前半のシューマンは最悪。人のせいにするのは良くないがラトルの言うとおりにフルトヴェングラーを聴いてしまったのが悪かった。あんなすごい演奏を聴いちゃったもんだからリハーサルから完璧に自分の音楽を見失っていた。とにかくこの曲の本質を全く理解できてなかった。でもあの時の僕の頭はとにかくハルサイで全く落ち込まず(おいおい・・)に後半へ。
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部屋のベランダからの眺め。寒いニュージーランドから来たので、緑が強烈に感じられ、まさにストラヴィンスキーの「冬の大地がバリバリと音を立てて崩壊し春が訪れる・・・」のイメージ。昔買ったハルサイのLPのジャケットのドキツイ絵の表紙を思い出す。
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ホテルの部屋のベランダ。ここがお気に入りの勉強スペース。目の前は春の緑。頭の悪そうな(失礼)鳥がぎゃぁぎゃぁ鳴くのもハルサイっぽくてよかった。この部屋にマジで3日間こもった。カメラのバッテリー切れで他の写真を撮れなかったのが残念。
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