藤岡さんから2004年、最初のお手紙が届きました。
今回は、藤岡さんの「ベートーヴェン」論です。文章だけでなく是非、藤岡さんの指揮でベートーヴェンを聴きたいですね。更に今回はプライベート写真も5枚と大充実。お楽しみ下さい。
皆様のご感想のメールもお待ちしています。

 みなさん、遅れ馳せながら明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

 さて今年はこれまでちょっと忙し過ぎた(本番数が海外も含めて一昨年が約90回、去年は100回は多すぎた)と反省。仕事のペースを落とした。日本の仕事を減らした分海外、をちょっと増やす。

 04年シーズンは5月にイギリス、6月オーストラリア、9月スウェーデン、10月オーストラリアとニュージーランド、11月にスウェーデンとベオグラード、年が明けてオランダといった感じで、あとは日本で関西フィルと集中して仕事する。


 今年は関西フィルと5年目。音楽的な面で更にどこまでお互い成長できるか重要な年にしなきゃならないと思ってる。

 新年はベートーヴェンでスタートした。田園と英雄、どちらも関西フィルとは初めてだ。

 ベートーヴェンは本当に難しい。最近というかこの10年、古楽器のスタイルの影響を受けた演奏が多いが、デビュー当初僕も例外ではなかった。留学前までは強烈なトスカニーニ信者だった僕にとってアーノンクールやブリュッヘンは新鮮で、あっというまにのめり込んでいった。

 僕はマンチェスター・カメラ−タ(室内管)のシェフになってすぐベートーヴェンのシリーズをはじめた。
 カメラ−タの連中はすでにバロックで古楽器奏法をとり入れていたので、僕がシェフになってベートーヴェンにもそのスタイルを積極的に取りいれた。配置も対向配置に変えて、回を重ねるごとに色々試してみた。ティンパニやホルン、トランペットもできるだけ古楽器を使おうという話になったとき、はたと気がついた。これでは古楽器オーケストラを指揮したほうが早い。現代楽器のオーケストラを指揮するならば違う道を捜すべきではないか? 

 もう1つの疑問が沸いてくる。ベートーヴェンの音楽はそのスケールが当時のオーケストラの響きを遥かに超越してしまってると感じるようになった。(実際ベートーヴェンは常に新しい楽器を求めてたのは良く知られてる。)今、ベートーヴェンが生きていたらわざわざ古楽器のスタイルで演奏することを望むのだろうか?

 さあこれからどうしよう?という時に日本で運命を6回連続で指揮をした。これが惨憺たる出来映えで、右側の髪が真っ白になるほどだった。(やっぱり右脳に関係あるんですかね?)。
ベートーヴェンに関して自分の方向を見失った僕は、それからしばらくベートーヴェンを避けてきた。

 勘違いされたら困るけど、僕は古楽器のスタイルを取り入れた演奏を聴くのは大好きだ。なるべくいろんな人の演奏を聴くようにしてるし素晴らしい演奏にも出会える。ただ考え方の違いで、当時の響きや奏法を再現しようとした上での演奏に対して、僕は「今、ベートーヴェンが生きていたら?」と意識する。

 去年から少しづつ自分の形が見えてきたので、今年からベートーヴェンを増やした。「奇抜ではないが新鮮な」演奏を目指すがこれが難しい。ただ中庸な音楽にもなりかねない。心がけてるのは埋もれやすい木管とのバランス、耳に慣れてしまったショッキングなコードをどう処理するか、フレージングの見直し、テンポ設定、ダイナミックス他限りない。何より生きたベートーヴェンの音楽には精神的な面が要求される。

久々に僕の好きな角度から美しい富士山を見れた。気持ちが大きくなる。

ここのところ大晦日は大阪で仕事だったので久しぶりの大晦日の谷中商店街。何でもないかもしれないけどここの雰囲気が下町っぽくて大好き。

渡邉暁雄先生の御宅に新年のご挨拶。
この部屋で5年間沢山の事を先生から学んだ。
僕は内弟子でしょっちゅう先生の御宅にいた。
僕にとって特別の空間。
先生の御骨がまだこのお部屋にある。
今年の決意を先生に報告した。

渡邉先生の奥様、信子夫人と。
前にも書いたけど絵を描かれる。
内弟子時代に本当にお世話になった。

気分転換で海の見える部屋をとる。
前日は晴天だったけど、この日はどんより。
エルガーを思い出す。
イギリスがちょっと恋しくなった。



 最近感じることは、カメラータのシェフの頃は「ベートーヴェンの音楽は重厚」という考え方は古臭いと思ってた。でもそれは今では間違いだったと思ってる。

 これから先どうなるか自分でも楽しみにしてる。特に関西フィルとは繰り返し演奏する予定なので、関西フィル&藤岡ならではといえる演奏を目指す。 

 というわけで新年早々続けてベートーヴェンだったので、ちょっとカタイ話しをしました。

 それではまた。



      2004年1月23日

PS1 先月は各地で第九の演奏会。ほとんど初顔合わせ。本当にそれぞれ違う個性の合唱団で、充実した時間を過すことができとても勉強になりました。ありがとうございました。

PS2 年末・年始は久々に実家でのんびり。恥ずかしいー!けど「冬のソナタ」にハマる。今の日本のドラマではあり得ない清潔さが美しい。今までは好きな女優がいなかったが、チェ・ジウはかなりタイプかも? 

PS3 調子が悪かった携帯を新しくする。カメラ付き。全然使い方がわかんない・・・・・。

PS4 つい最近までカーステレオのCD6枚チェンジャーの中身は、グローバー・ワシントンJr、80'sAOR1&2、シャカタク、ユーミン・達郎・角松敏生・サザン他の自作MIX、アントニオ・カルロス・ジョビンだった。全部20年!も前の音楽と反省。 今は中島美嘉、EXILE、キクカン、パット・メセニー、ユーミンの新譜、デヴィッド・サンボーン。特に中島美嘉はお気に入り。

PS5 有線を自宅で聴けるようにした。お気に入りのチャンネルはイギリスではしょっちゅう聴いてるClassic FM 。これは例えば、月光ソナタ2楽章の後に、トゥランドットのアリア、その後にドヴォ8の3楽章・・・。というように、全く意表をつく形で色んな曲が流れる。交響曲やソナタは楽章1つだけで短いし聴きやすく面白い。イギリスでは大人気。この番組と、ハワイのジャズFM、日本のJPOPチャンネルをMDに録音しておいて移動中に聴く。かなりイケル。

PS6 新年は水口、城陽、橋本、小野でニューイヤー。各地毎年恒例になった。何処にもそれぞれ思い出があって楽しみにしてる。関西フィルは1年を通じて各季節で毎年訪れる街が増えた。本当に大切なことだと思ってる。ありがとうございます。

PS7 来月はザッヒャー・シリーズVol.4 外山先生のディヴェルティメントにマルティヌーの弦楽合奏、ピアノ、ティンパニのためのダブル・コンチェルト(これは最高です!)。最後はシューマンの2番。外山作品は日本情緒に溢れる。マルティヌーはジャズの影響をうけてたりと、当時としては斬新で弦楽合奏・ピアノ・ティンパニが強烈な響きを創りだす。必聴!シューマンは精神的に病んだときに作曲され始め、健康を取り戻した時に完成されてる。その影響がストレートに出てるといっていい。作曲前に心の闇の中でトランペットのファンファーレが常に鳴っていたという。交響曲ではそのファンファーレがまるで希望の光のように活躍する。お楽しみに!

※本ページの写真は藤岡さんのプライベート写真です。
 
無断転用はお断り致します。


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