藤岡さんから、クリスマス(25日)が終わる直前(21時)に、今年最後のお手紙が届きました。
年末の第九や沢山のコンサートで大忙しの藤岡さんですが、ホームページ読者の為に、12年前のコンテストの話や、湘南でのプライベートショットも送って頂いております。写真はもちろん大きなJPEG写真にリンクしてあります。お楽しみ下さいね。) 感想のメールもお待ちしています。

こんにちは。やっとちょっと一息。

さて今回は12年前のプラハの春の話。

僕は27になるまで外国に行った事がなかった。行くチャンスはあった。特に指揮者になる夢を諦めてた大学生時代、よくハワイやグアム系の島に遊びに行こうと誘われた。でも僕にとって飛行場は特別の場所で、指揮者になるためにガイコクに飛び立つのはガキのころからの憧れだった。いくら指揮者の夢を断念したからといって、南の島でフラフラ遊ぶために神聖な飛行場には行けなかったのだ。だから海はいつも湘南だった。

さて大学3年の終わりに渡邉先生に弟子入りできて(このときの話はこちら)、再び指揮者の夢を目指すことに。先生に弟子入りしてから5年目、やっと海外のコンクールを受けるチャンスがやってきた。それが4年に1度開催されるプラハの春の指揮者コンクールだった。

生まれて初めて行った外国の街プラハは、当時はまだ東西の壁が壊れた直後で、西側文化に汚染されてなくてそれは美しかった。車が少なく、街中にほとんど信号なんてない。広告も無い。驚いた。でもこっちはコンクールで観光どころでなくて、安ホテルの部屋にこもる。なんてたって、ガイコクは初めて。知らなことだらけなんで、コンクールが始まる1週間前にプラハに入って朝から晩まで部屋で勉強してた。食事は全部安ホテルの食堂。英語のメニューなんて無いから、身振り手振りで注文。結構美味しかったな。

いよいよコンクールが始まる。200人近くの中から書類選考で選ばれた約40人で競う。ホールは一次から最終予選まで全て伝統あるスメタナ・ホール。オーケストラはプラハ放送交響楽団。

一次予選は20分の中でウェーバーの「魔弾の射手」序曲を振る。通してもいいし、リハーサルをしてもいい。自由。僕は通さないでリハーサルをした。生まれて初めて振る、プロのしかもヨーロッパのオケ。緊張した。客席には審査委員長の名指揮者クーベリックやノイマンなどの顔が見え気合が入る。とにかく無我夢中。


 
 

ちょっと一息。冬でも大好きな湘南で・・・。


 
 

お気に入りの葉山のカフェで。

「PELLE」の皆さん。ハンター坂を20メートルほど昇って、焼き肉やさんの角を左に曲がって直ぐ右側。0782−523−718。奥で隠れてるのがご主人。


一次の発表で自分の名前を見つける。これで自信がついた。
一次をパスしたのは10人くらいだったと思う。二次はチェコの作曲家マルティヌーの交響曲と、協奏曲(なんだか覚えていない)を振った(たしか持ち時間は40分だった)。このときははじめからリハーサルをすることになっていて、自分の解釈を伝え、間違った音があれば指摘したりする。振り終わった時点で絶対自信があった。何故なら渡邊先生の声が聞こえたから・・・。(作り話じゃありません本当です)。「サッチーノ、良くできた。いいぞ」。 このとき先生は入院中。何とか結果を出して先生に会いたかった。

二次の発表、中国人とブルガリア人と共に、ファイナリストに選ばれた。嬉しかった。おまけにノイマンが僕のところに来て褒めてくれたので完璧に舞い上がった。はっきり言って有頂天だった。

最終選考でオケは名門のチェコフィル。リハーサル形式で新世界と、マーラーの4番を振る(両曲とも1楽章)。僕は絶対優勝するつもりでいた。自信もあった。余命わずかとわかっていた渡邊先生にも喜んでもらいたかった。

最終予選で与えられた時間は70分。「チェコフィルで新世界!」内心びびった。(ドヴォルザークはチェコフィルの十八番で有名)。「いいか、オケをチェコフィルだと思うな。俺は天才だ。やりたいことをやればいい。」自分に言い聞かせてステージに向かう。満席の客席にお辞儀をして指揮台に立つ。ところが、この後のことは全然覚えてない。よっぽど興奮して冷静さを欠いていたのだろう。そんなことでいい指揮ができる分けが無かった。

結果は優勝者は無しで、僕はファイナリストの賞をもらっただけ。


次の日、落ち込んだ心を癒すためカテドラルや美術館を見て回った。カルチャー・ショックだった。「これがヨーロッパか・・・・・」。
とにかく渡邊先生になんて報告しよう、落ち込んだまま帰国。空港から先生の病室に直行した。

先生の部屋に入ると先生はニコニコしてらした。「サッチーノが優勝しないように神様にお願いしてたんだよ。今優勝したらイギリスで勉強しないだろ。まだ早いよ」。

渡英してから先生の言った意味がいやというほどわかった。


なんでこんな話をしたかというと、その思い出のプラハの街の名門オケ、プラハ交響楽団を来月東京で指揮します。彼等の十八番ドヴォルザークの8番はどうなるか?吉松さんの「鳥は静かに・・・・」はどんな音がするんだろう?小林美恵さん(ヴァイオリン)との共演も楽しみ。そして最後はボレロ! 是非聴きにきてください! 

1月9日 東京サントリー・ホール お問い合わせ先 (03)3499−9990 です。


今年も1年、沢山の応援をして頂きありがとうございました。来年も今年以上に頑張ります。
皆さんも、よいお年をお迎え下さい。
それではまた!!

            2002年12月25日

PS1 関西フィルとの11月の定期のショスタコーヴィッチ、12月5日のNHKホールのチャイコフスキーは、正指揮者に就任して3年かけてお互い積み上げてきた結果を出せたと思う。今の関西フィルの集中力と一体感は特別。それにメンバーの表情が本当にいい。まだまだ関西フィルはどんどん良くなっていきます。

PS2 12月に入ってからは、京響さんと第九。とにかく第九は難しい。結局99年から全部で16回、京響さんと第九をさせてもらった。
本当に色々勉強になった。棒にきっちりつけてくれるオケなので、毎回本当に得る事が多かった。これから先、第九を振る上でこの16回の経験を大切にしていきたいと思う。ありがとうございました。

PS3 第九各地の合唱団との交流も楽しかった。第九だけで3回目だし、それ以外でも大阪、滋賀、和歌山などは夏にも共演してるので、飲み会なんかすごく盛り上がる。いい出会いだった。

PS4 1月16日にいずみホールと「Meet The Classic」。今回が6回目。今回はSAXの須川さんがゲスト。後半はラフマニノフの交響的舞曲。僕がロンドンのプロムでデビューした時の思い出の曲。1楽章の中間部のサックスの甘いソロも須川さんが吹きます。2楽章は悲しく、妖しいワルツ、3楽章は最後に「アレルヤ」が鳴り響き音の大伽藍のフィナーレを迎えます。どうぞお楽しみに!

PS5 ICEのCDを買う。この人達の音って昔の角松敏生にちょっと似てる。80年代の洋楽好きの人にはお勧め。

PS6 三宮で美味しいお店見つけました。サッカー好きのご主人がつけた名前は「PELLE」。でも日本食。炭火で焼く新鮮な素材の数々。それから元気鍋は絶対お勧め。死ぬほど食った。値段も手頃。是非行って見てください。サッカーのあのカズも常連客だそう。

   
※本ページの写真は藤岡さんのプライベート写真です。
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〜藤岡幸夫さんを応援するWEBの会より〜
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