藤岡さんから新しいお便りが届きました。
今回は藤岡さんの「濃い」マニアックなお話です。さらに写真は、先般コンサートがあったスイスのウィンターツールの写真です。藤岡さん撮影の ナイスアングルばっかりで、 「う〜ん、美しい!」と 感動ものした(すべての写真はきれいなJPEGの写真にリンクを張ってあります)。
ぜひ、ゆっくりお楽しみ下さいね。
※TOPページでも告知していますが、 藤岡さんが、佐藤しのぶさんの番組「佐藤しのぶ出逢いのハーモニー」に出演され、音楽界に対する熱い思いを語ります! 放送予定は、以下のとおり。
ぜひ御覧下さい!

 ■キー局
  TVKテレビ 12月11日(月)22:00〜22:28
         12月15日(金)10:30〜10:58(再放送)
  ■ネット局
   千葉テレビ  12月11日(月)22:00〜22:28
   テレビ埼玉  12月11日(月)22:00〜22:28
   サンテレビ  12月18日(月)21:00〜21:28
   とちぎテレビ 12月22日(金)22:30〜22:58


スイスのウィンターツールの裏道リの一角。ヨーロッパでは良く見られる風景。東欧でも同じような風景を見ることができる。でもイギリスでは絶対見られない風景。(やっぱりイギリスはヨーロッパじゃない?)

これはウィンターツールの高級店が並ぶメイン道り。この並びに僕の宿泊したホテルがあります。

皆さんお元気ですか?
今回はマニアックな話です。

11月は小野市のコンサート後マンチェスターで一泊してスイスへ。
自分自身ある程度満足できるコンサートなんて1年に2−3回がいいところだけど今回は(2つあったプログラムの最初の方)その1回でした。
このヴィンターツール管弦楽団は、スイス最古のオケで古くはツェルヘンが長くシェ フをやっていて最近ではウェルザーメストがシェフをしてたオケです(現在はチェ リストのシフ) 。

今回で振るのは3回目。とにかく弦がよく鳴るしキレイ。
吉松さんの「鳥は静かに .........。」最高でした(お客さんもすごく喜んでました)。
コンサートマスター が練習ごとに奏法を変えて試行錯誤した結果がすごく良かった。 木管も抜群で振っていて楽しい。
特にうまくいったのは、ラヴェルの「マ・メール・ ロワ」とハイドンの60番。 このオケはハイドンがものすごく上手なオケ(前回も86番を振りました)。なのに今年の年間のプログラムにほとんどハイドンが入ってない!もったいないなぁ。

ここからはちょっと専門的な話になりますが、このオケはハイドンの音の出し方をよ く知っていて、決してヴィブラートを使い過ぎないし、そのスピードを良くコント ロールする。
ノンヴィブラートでお願いする箇所ではみんな古楽器の奏法に通じてい て美しい音をだしてくれる。音が絶対重くならない。
これはマンチェスター室内管も まったく一緒でモーツァルトともまったく違うアンティークな音を創れる。
上品でありながら、ものすごく生気のいいパリッとしたハイドン。 楽しかった!。


今回は専門的な話ついでに言うと、基本的に現代楽器で古典を演奏するとき全てノン ヴィブラートというのは僕は考えられない。
モーツァルトはハイドンよりもちょっと だけヴィブラートを多めに使うのが個人的には好きだ(何故ならハイドンの音楽で は音の響きが大切なのに対してモーツァルトの音楽は歌うことが重要だと僕は思って る)。
ただし音がロマンティックに(重く)ならないように。逆にベートーヴェンでは ちょっとだけ重くする。

最近良くノンヴィブラート奏法の話を聞くけど、まず当時は弦の材質も違ったし、ヴィブラートは当時でもあったが現代楽器のものとは違った。ヴァ イオリンは肩あてがなかったし、チェロには足がついてなかったから楽器を左手で支 えていた。 つまり今で言うヴィブラートは使わなかったのではなく、存在しなかった。
楽器がだんだん発達してきたころはきっとオーケストラの中は今でいう古楽器と現代 楽器が混ざっていたと思う。
そしてヴィブラートを使うのは当時としては新しい奏法 だった訳だ。

常に新しい楽器を求めていたベートーヴェンが今生きていたら、現代楽器でのノン ヴィブラートと古楽器奏法を望むのだろうか?(勿論いろいろな箇所でノンヴィブラートは効果的だけどここでは全く使わないという意味)
またあれだけ歌うことを要求されているモーツァルトの音楽で、今モーツァルトが生きていたらなんていうだろう?モーツァルトに現代楽器を持たせたらヴィブラートを使 わずに古楽器の奏法でコンチェルトを弾きはじめるのかしら?

誤解されないために言っておくと、古楽器によるハイドン、モーツァルト、ベートー ヴェンetc の演奏を聴くのは大好きです。
ただその奏法を現代楽器に全て持ちこもう とするのは無理があると、僕は感じる。

 

ウィンターツールのシンボルの「時計台」

 

コンサート会場 Stadthaus。リハーサルもここでします。

ホテルの部屋の窓から見た外。この日はカーニバルで沢山の ミュージックバンドが行進。うるさくてトイレにこもって勉強してました。


時計台の前の僕 。

さらにマニアックついでに言うと、現在流行のベートーヴェンのベーレンライター版 =古楽器のスタイル、テンポがすっごく早いというイメージがあるけどこれはレコード会社やオーケストラの宣伝のせいで、基本的にメトロノームの速さは通常のブライトコップと変わらないし(数カ所訂正さ れてるだけ)、古楽器奏法について指定されてるわけでもない(アーティキュレー ションは原譜にそってある程度変更されている) 。

もっと突っ込んでいうとこのベーレンライター版、僕はあんまり好きになれない。
第九を例にとってもいろいろあるが、例えば1楽章の82小節目の木管のD(音) は信じられないし、(なんでここだけ違うの?長6度になってる再現部と比較して も変)。
4楽章の有名な「Vor Gott」(330小節)のティンパニのディミニュエンドが 無い!
このディミニュエンドはベートーヴェンが濁った音が欲しくなくて(神聖な 響きがほしかったのだ!)、ワザと書いてあると信じる僕にとっては (自筆譜でも僕にはディミニュエンドに見える)耐えられない。
僕は新ブライトコップ版を(出ているものは)使ってる。まだ全部は出ていないけど使い易い。
交響曲のような大曲は演奏されるたびに作曲家自身も色々と気がついて最初に書いたものが変更されていく。
この版はその集大成と感じる。
新しいブライト コップ版はこれまで明らかに間違いとされてるところを修正してある。スコアというのは自筆譜に近ければ良いというものでもないし。

ついでにオーケストラ配置について。
最近、2nd ヴァイオリンを右側(外)に配置する古いスタイルが流行ってる(復活 してる?)。
これは、当時、作曲者がこの配置を意識して左右のヴァイオリンのステレオ効果(?)をイメージして作曲していたというのが一つの理由だ。
僕もマンチェスター室内管と仕事をはじめた最初の1年間は、この古い配置にし た。ところがこの配置には大きな欠点がある。
チェロとコントラバスが左側(1st ヴァイオリンの隣がチェロ。その後ろがコントラ バス)に来てしまうことだ。
こうなると左側の音量がやたらに大きくなる。また実は左右のヴァイオリンのステレ オ効果を本当に意識して作曲された部分は(どの作曲家も)たいした小節数ではない (と思う)。
更に僕が思うに、作曲家はピアノを弾いて作曲する人が多いけどそのとき左手の低音部 と右手の高音部は完璧に分離してイメージしていて、この配置のように左側から低音 部と高音部が混ざって聞こえてくるのは作曲家にとってどんなものだろう?

僕がマンチェスターで学生の時、1st と2nd ヴァイオリンのステレオ効果を狙って、 古い配置でラフマニノフの2番を指揮した。
この曲の冒頭に1stと2ndヴァイオリン の掛け合いがある。ところがその冒頭の部分でコントラバスとチェロと1st ヴァイオ リンが混ざって左側から聞こえてくるのにすごい違和感を感じた。

結局、現代の配置 に戻してしまった。 昔は管楽器はヤマ台に乗っていなかったので(僕が知る限りではマーラーが自身の 4番のリハーサル中にホルンを台の上に乗せたのが始まり) 、コントラバスは管楽器の後ろで弾いていた。
これなら音の分離もいい。ただヤマ台を使ったうえでこの配 置を効果的にできるホールはすくない(ヤマ台を使わないと木管が聞こえ難くな る)。


チャールズ・マッケラスはマーラーを振るときこの欠点を解消するために、1st ヴァイオリンの隣にヴィオラを持ってきて、その隣(右内側)がチェロその奥がコ ントラバス、右側外を2nd ヴァイオリンにしていた。 そういえばこの配置を通常にし ているオケもあった。
ノルウェー放送響なんかがそう。 こうなってくると、僕の性格上配置なんてどうでもよくなってくる。

しいていえば、 僕自身の今の好みはヴィオラを右側外に出す配置。 ロマン派以降は勿論、ハイドンやモーツァルト(特にピアノコンチェルト)には隠れ た(聞こえにくい)素適なメロディやいい音がヴィオラには沢山ある。
それがクリア になるし、チェロが正面(右内側)を向くことで、チェロの音もストレートに鳴ってく る。

ここまで色々好きなこといってきましたが、実は関西フィルがいずみホールで飯森泰 次郎先生と このベーレンライター版で古いオーケストラ配置でノンヴィブラートに近 い奏法でベートーヴェンのシリーズをやってます。
僕も聴きに行きましたが、すごく 新鮮で説得力のある演奏でとても楽しめました。
関西フィルの音が明らかに違いま す。是非足を運んでみてください。

結局、版の違いやオーケストラの配置なんてある意味じゃ、演奏の良し悪しには関係 無いと思ってます。
その演奏に説得力があるかないかだと思ってます。

言いたいことを散々言っといて、拍子抜けかもしれないけれど、 それだけ演奏することに(再現芸術)には幅があるということかな。

たまには音楽のちょっとマニアッ クな話をしてみました。

                          2000年11月25日

PS1 いい忘れちゃったけど、マルタンの 6 Monologe aus Jedermann
     という曲も指揮してきました。これ名曲です。
    今までマルタンに興味無かったけど、今マルタンにはまりそう。
PS2 突然ですがメガネをつくりました。(普段はコンタクトです)
     この2年間自分に似合うフレームが全然みつからなかったけど、
     やっとマンチェスターの自宅のすぐ近くのメガネ屋さんで見つけ
     ました。もうすぐ手に入る!
PS3 来週はオーストラリアで仕事です。去年の3月にお手紙で紹介した
     オケ(うまい!)です。この12月に新しいコンサートホールが
     オープンしてそのオープニングシリーズなので楽しみ。
PS4 マンチェスターは毎日雨。この10年で最悪。寒いし、日は短いし
     おかげで勉強がはかどります。
PS5 以前から皮のロングコートが欲しくて、カッコイイのがあったので
     試着してみました。(色は黒) 全然似合わない !
     歌舞伎町をふらふらするにはいいけど。濃すぎる!
    僕が着るとケバイ。悔しいけどやめました。  

※本ページの写真は藤岡さんのプライベート写真です。
 無断転用をお断りします。

〜藤岡幸夫さんを応援するWEBの会より〜
すでに届いたファンの皆さんのメールをご紹介しています。是非ご覧下さい!
そして、あなたも是非メール下さいね!


[ HOME ] [ PROFILE ] [ CONCERT SCHEDULE ] [ DISCOGRAPHY ] [ LETTERS ] [ ABOUT THIS SITE ]
[ FROM MANCHESTER ]